そして男は隊を離れ、再び北を目指した。
その背に在るのは、一振りの灯刃。
ただ独り往く回帰への長い旅路。
男は進むべき先だけを真直ぐに見据え、旅塵に汚れた軍靴を力強く踏み出す。
規則正しく拍を踏む一歩一歩が独白であり、そして己自身との対話でもあった。
思えばこの戦いの日々の全てが、そうであったのかもしれない。
再び足を踏み入れた戦場で、何を得たのか。果たしてそこに意味はあったのか。
今はまだ分からない。けれど――
「――ただ、お前に伝えたい」
戦いの喜びも、悲しみも、痛みも、すべて。
すべてが終わった今だからこそ、あの頃は頑なに押し殺していた素直さで、ありのままに伝えたい。
願いに突き動かされるその歩みを、何ものも妨げることは出来なかった。
やがて旅路は、終わりを迎える。
そこに、嘗ての少女はいた。
二人の道が別たれた、その場所に。
大きく見開かれた琥珀の双眸は、佇む女を捉えたまま時を止めた。
男はまるで再び仮面で覆ってしまったような無表情を携えたまま、ゆっくりと歩み寄る。
何を話そうか。ここに至るまでそればかりを考えていたはずなのに、自分でも可笑しくなるほどに頭の中から消え去ってしまっていた。
手を伸ばせば触れられるほどの距離で立ち止まると、男は少し照れたように顔を綻ばせた。
「ただいま」
差し出した掌にはいつかのピアス。
透き通る緋は二人を導く灯火のように、いつまでも輝き続けていた。
私たちは、時の流れに縛られることはない。
肉体という器の奥底には、記憶が生き続ける魂があるだけだから。これは我々が語り継ぐべき、ひとつの物語。
終わりはイブラシル暦689年の冬、嘗ての終焉の地ヘステイア。
紡ぎ手は機動殲滅隊6代目総帥、『落露の氷輪』
またの名を、ロジェ・ド・ラクロ。
【Image Track 15】 Mono - Everlasting Light
[1回]
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