露はどこへ落ちるのか。
「赤」を冠する塔には、乾いた風が強く吹く。
石壁に広く穿たれた物見窓の傍に立ち、氷輪は僅かに細めた琥珀の双眸で世界を見渡す。その黒髪と、軍装の裾を靡かせながら。
薄雲に輪郭を霞ませ緩やかに横たわる山々の奥へと消えた彼の地はもう遠く離れてしまった過去でしかなく、だがそれでも氷輪の心を捕え続け、深い痛みを伴う回顧を強い続ける。
色褪せることなく鮮やかに焼付いたままの、戦場に躍る少女の残像。
痛みに耐えるように、愛でるように、右の掌を拍動の上に重ねた。
そして氷輪は踵を返す。哀しみに啼く曲刀を、滑らかに抜き放ち。
断たぬのではなく、断てぬのだ。痛みすら喪うことを恐れる、臆病ゆえに。
【Image Track 12】 Ólafur Arnalds - 3055
[2回]
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