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04 . December
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30 . August
「――必ず返す」

そう告げて借りたままのピアスは、まだ胸元に眠っていた。
その透明さを、僅かも損なうことなく。
透き通る緋はまるで遠き日の落陽。世界に残した、想いの爪痕。
ほんの一瞬、けれど確かに重なっていた二人の軌跡はやがて別たれ、そして遠ざかった。
あの日々の記憶は、今でも胸の奥深くを掻き毟り続ける。


――再び重なることを、望むのか?


幾度、自らに問うただろう。
望めばそれは、きっと容易い。
けれど。


そして答えを出せぬまま、更なる深潭へと足を踏み入れる。
眼下には、塔の底へと連なる階段。
果て見えぬ螺旋に己を重ね、氷輪は小さく笑った。


然らば、闇の中へ。


ぐるぐると、ぐるぐると。





【Image Track 09】 Mono - Silent Flight, Sleeping Dawn

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24 . July
「黒」を冠する塔。
その頂は月無き夜に溶かされて、全てを窺い知ることは叶わなかった。
しかし、ここから見上げる者は否応無く気付かされるであろう。
そこに住まう、確かな魔の存在を。

地下深くへと連なる長い長い螺旋を紡ぐ、果ての知れぬ階段。
石造りのそれは、一段ごとに乾いた靴音を響かせる。
その乱れぬ律に耳を預けたまま、氷輪は嘗て読んだ物語を思い出す。
それは歴史の彼方、神話に生きる人々が天を目指して塔を建てたという物語。
ならばこの深潭へと降りる螺旋は、誰が何を目指したのであろうか。


――或いは、人ならざる者の所為であろうか





【Image Track 08】 Mogwai - Friend of the Night

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23 . June
6月の降り止まぬ雨はまるで、鎖のようだった。
春が、大地を繋ぎ止めるための、鎖。
けれど夏を求める大地は抗う。やがて鎖は、断ち切られるだろう。


氷輪は今日も、空を仰ぐ。
雨粒が仮面を叩き続ける小さく軽い音の連なりが、不思議と心を落ち着かせた。
この地で時が途切れたのは5年前の春が終わる頃。そして今、時は再び動き出そうとしている。
全てを隠す仮面の下、雨音にかき消されてしまうほど小さく、氷輪は呟く。


ただいま。


そして氷輪は足を踏み出す。力強く、前へと。
戦いを始めよう。忘れられた名を、世界に示すため。




雨音が途絶える。
夏が、始まろうとしていた。





【Image Track 07】 Mouse on the Keys - Forgotten Children

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