「――必ず返す」
そう告げて借りたままのピアスは、まだ胸元に眠っていた。
その透明さを、僅かも損なうことなく。
透き通る緋はまるで遠き日の落陽。世界に残した、想いの爪痕。
ほんの一瞬、けれど確かに重なっていた二人の軌跡はやがて別たれ、そして遠ざかった。
あの日々の記憶は、今でも胸の奥深くを掻き毟り続ける。
――再び重なることを、望むのか?
幾度、自らに問うただろう。
望めばそれは、きっと容易い。
けれど。
そして答えを出せぬまま、更なる深潭へと足を踏み入れる。
眼下には、塔の底へと連なる階段。
果て見えぬ螺旋に己を重ね、氷輪は小さく笑った。
然らば、闇の中へ。
ぐるぐると、ぐるぐると。
【Image Track 09】 Mono - Silent Flight, Sleeping Dawn
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